自分から別居を言い出した時の慰謝料
2014年05月9日
<5>自分から別居を言い出した時の慰謝料
~「悪意の遺棄」になってしまうのか~
[相談]
今まで見て見ぬふりをしていた夫の浮気癖。今回の相手の女性が、自宅への無言電話、
後をつけるなど嫌がらせをしてくるようになりました。私も我慢の限界です。
夫に話す前に、離婚覚悟で実家に帰ろうと思うと、友人に相談しました。
すると、「今、家を出たら慰謝料も取れない。先に離婚の話し合いをするべきだ」と言われました。
先に家をでたら慰謝料が取れなくなるのですか?
[回答]
ご友人は先に家を出たら「悪意の遺棄」にならないか心配しているのでしょう。
「悪意の遺棄」とは一方的に家を出る行為をいいます。
夫婦には同居義務がありますので、これを果たさない「悪意の遺棄」は裁判上の離婚理由の一つで、慰謝料を請求される原因にもなります。妻の「悪意の遺棄」が原因で離婚、となれば妻の側から慰謝料を請求することができませんので、ご友人の心配はそこだと思われます。
ただし、「悪意の遺棄」とは、あくまでも正当な理由もなく、一方的に家を出る場合を言いますので、
単身赴任や病気療養、暴力などの事情がある場合には、「悪意の遺棄」とは言いません。
今回のご相談の場合、夫の浮気・浮気相手の嫌がらせと、別居するだけの理由がありますから、
先に家を出ても離婚訴訟時に不利にはならないでしょう。
一つ心配するとすれば、夫側が浮気等の証拠を隠してしまうことです。裁判所では双方の言い分・証拠に
基づいて公平な判断が下されます。証拠がなければ裁判所はそれを事実と認めてはくれませんので、
夫の浮気の証拠(メールのやり取りやホテルの領収書等)や、浮気相手の嫌がらせの証拠(無言電話の録音や、つけられた時に警察に相談する等)を集めておきましょう。
・別居後、生活費について夫に援助を求められるか?
特に専業主婦の場合、別居後の生活費をどうするか、という経済的な問題があります。
実家の親が経済的に苦しく援助してもらえない場合など、夫に援助を求めることができます。夫婦には相互扶助義務・婚姻費用分担義務があるからです。
夫婦の相互扶助義務は、夫婦がそれぞれ同等の生活をすることができるようにする義務とされているので、妻が病気で自分の治療費や生活費を稼ぐ能力がなく、生活に困っている場合には、自分の生活レベルを
下げてでも妻を援助する義務があるのです。
一方、夫婦には、同居して協力して生活する義務もあります。ただ、病気療養や暴力など、正当な理由が
ある場合には別居も認められ、別居しているからといって夫婦の扶助義務がなくなるわけではないと解されています。
ここで、実家の親も親族なので、相互扶助義務はあります。ところが、親子の扶助義務というのはそれぞれの生活に余裕があるときには援助しましょう、という義務であって、夫婦と異なり生活レベルを下げてでもお互いを援助しなければならないというものではないのです。したがって、実家に身を寄せていても、夫婦の権利・義務として夫に援助を求めることができるのです。